don't say『Love』

コツンッ

二階にある私の部屋の窓を何かが叩く音がした。
でも、正直寒いので出たくない。
どうせ今日も遅刻で行く予定だし、無視しておこう。

コツンッ

コツンッ

コツンッ

……………

誰かが悪戯でもしてたのかしら。
まぁ諦めたみたいだしいいか。

その考えは、どうやら砂糖五個分ぐらい甘かったようだ。

「すいぎんとーッ!いるのはわかってるかしらー!!」

………………。
OK、状況を確認しましょう。
今日は平日。
今、朝の6:50。
ご近所はまだ静まり返ってる。
「すいぎんとーッ!学校行くかしらー!!」
静寂を破るようにキンキンと外で叫んでるのは私の恋人。
彼女のバカでかい声は近所中に届いている事でしょう。
……………………。



ドドドドドッ!


玄関先
「おかしいかしら…水銀燈が出てこない…声が小さいのかしら?もう一度してみようかしら。すい…」
バーン!
「もういいわよぉ!十分聞こえてるわよぉ!」
私は慌てて玄関に飛び出す。案の定そこには巻きっ毛の少女が立っている。
私は睨み付けるように彼女を見た。
「人の安眠妨害してくれて本当におばかさぁん」
「うぅっ、人相悪いかしら!早く学校行く準備するかしら!」

…………こいつ今さりげなくひどい事言わなかった?


大体なんでいきなり人の家来てるのよ。
私は通常どおり顔を洗って歯を磨いて用を足して、の1セットを行なうとパジャマを脱ぎ捨ててクローゼットから制服を取り出した。
普段はこんなに早く起きる事ないのにィ。
あーなんか肌のノリ微妙な気分。
「早くするかしらーッ!!」
………………。



「なんなのよあんたぁー……」
「水銀燈が遅刻しないようにカナが迎えにくることにしたのかしら」
ビシッと指さされても。
「迷惑極まりないわぁこのおばかさぁん」
結局私は定刻通りに学校に行ってしまったのだった。
あぁ、本当眠たい……。



お昼。
今日の昼ご飯?ご馳走よォ。
なーんとヤクルト5本パック。こんなぜいたくしていいのかしらぁ?
「いただき…………何よ」
蓋を剥いで縁に口を付けた瞬間に、視線を感じた。
金糸雀はジッと私を見ている。
「水銀燈まさかお昼それだけかしら?」
「そうよォ、美容と健康のためには三食ヤクルトが一番……」
「だめかしらだめかしらだめかしらー!!!」
耳元で叫ぶんじゃないわよ!!
私が昼ご飯ヤクルトなのはいつものことじゃない………。
「栄養バランスが崩れるかしら!そんなのよりカナの作った弁当を食うかしら!」
渡されたのはステンレスの箱。
あれ、でも金糸雀の膝には黄色い弁当箱があるわねぇ………。
「どーせあんただって卵焼きオンリーでしょぉ?」
パカッとあけてみると……………ん?
至って普通だわぁ。
寧ろおいしそう………。
「さぁ、思う存分に食すかしら」
自慢げに胸を張る金糸雀。
………まさかわざわざ私のために作ってきたのかしら。


「尽くされてるわね、水銀燈」
掃除時間、サボろうにも同じ区域の真紅に捕まり真面目に掃除…………下級生のくせにィ。
そんなとき真紅がこんなことを言いだした。
「なぁに真紅、誰に尽くされてるですって?」
「金糸雀」
にこり、と真紅は私を見て微笑むと塵取りを床に置きゴミを箒で入れた。
真面目ねぇ。
「あの子『水銀燈に愛をわかってもらうかしら!』って昨日から張り切ってたのだわ」
「えっ」

愛ですって?

聞いた瞬間、頬が熱くなるのを感じた。
私の様子を知ってか知らずか真紅は尚も語り続ける。
「『水銀燈はまだ本当の愛に慣れていないから、少しでもいいから愛してあげたい』ですって……水銀燈?」
「何よそれぇ………」

だったら今日の行動は全部愛故のことってわけェ………?
「恥ずかしい人…」
真紅に背を向ける。
だって、今の私の顔、絶対に真っ赤だわ………。
「照れ屋ね」
真紅は一言呟くと何事もなかったかのように掃除の手を再開した。

私らしくもないわぁ、こんなに動揺するなんて…………。


放課後。
「水銀燈ッ!今からカナに付き合うかしら!」
掃除時間中の話が頭から離れない中、金糸雀は私のクラスに飛んできた。
「な、何よ、どこ行く気よ」
「いーからいーから!」
手を掴まれる。
いつもは意識しないけど、今日は異常に気になって仕方がない。
繋がれた手に血が集中してるみたいに熱い。
「…………」



金糸雀に引っ張られて来た場所は学校の近くの公園。
寒いためか人っこ一人いない。
「はい水銀燈」
とりあえずベンチに座らされた私。
金糸雀はすぐ戻るといって駆け出したあと本当にすぐ戻ってきた。
「あらぁ、奢り?………って冷たっ!」
渡されたのは冷たいコーヒー缶。
なんでわざわざ寒い日に冷たいコーヒー買うわけ?
「え?あーッ!間違えてコールド買っちゃったかしらー!」
気付きなさいよ……。


「水銀燈」
私はせっかくだし、とコーヒーのプルタブを引いて缶をあける。
手がかじかむわぁやっぱり………。
「何」
一言返すと口のなかにコーヒーを含む。
ブラック買ってきたみたいね、私の好み覚えてるじゃない。

「愛してるかしら」



私は思わずむせてしまった。


「げほっ!げほっ!」
「大丈夫かしら!?」
「い、いきなり何を言いだすのよッこのおばかさん!」
何の前触れもなく言いだすなんて不意打ちだわ。
「だって本当のことかしら!」
「何も今言わなくたっていいでしょ!?」
我ながら冷静さを少し失ってたと思う。
「愛してるかしら愛してるかしら愛してるかしら愛し」
「お願いだからやめてー!」
ぴたりと金糸雀の声が止んだ。
なんか、もう恥ずかしさで目がうるんできたわぁ………。
「そんなに苦手かしら?愛って言葉」
「……………恥ずかしいじゃない」
「ふーむ」
金糸雀は呟くと額に指をあてて考える人のように何かを考えだした。

…………

……………………

……………………………


「じゃあやっぱり行動で表すしかないかしら!」
「はぁぁぁ!?」
「水銀燈にカナの愛をわかってもらうには言葉だけじゃなく行動が必要かしら!」


「もういいから」
「へ?」
「じゅーぶんあんたの愛はわかったから」
「本当かしら!?」
金糸雀は心底嬉しそうな笑顔を私に見せると急に私の体に飛び付いてきた。
危なっ……。
「えへへぇ〜……」
「何笑ってるのよぉ」
「水銀燈が愛に少しずつ慣れてきたのが嬉しいかしら〜」
カッ
また、顔が熱くなるのを感じた。
もうっ、どこまで人を赤くさせれば気が済むのよ…………。






翌朝。

眠たい寒いだるい。
今日は学校サボっちゃおうかなぁ……うふふ。
布団にくるまってもう一寝入りしようとした時、


「すいぎんとー!!!」

………………。


………あれも、愛なのよね?
手厳しいわぁ…………。


・・・kommさ ま・・・・・・これヤバイですっ て!!!!なんですか、このカナのかわいさ!!?
お忙しいのに、無理言って書いていただいた、「カナに振り回される銀様」ですvvv
・・・銀さまの赤面ヤバイよー・・・vvがんばるカナかわいすぎですよー・・・vvvvvv
kommさまありがとうございました!!